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ワルシャワの生き残り(2台ピアノ、打楽器のための版)

松平敬, 薄木葵×東祐輔ピアノデュオ, vocalconsort initium

私がinitium ; auditoriumに動画作品を出展することになったのはコロナ禍がきっかけですが、シェーンベルク晩年の名作『ワルシャワの生き残り』の今回の編曲を作ったのもコロナ禍で自由な時間ができたのがきっかけで、特定の演奏機会を前提としたものではありませんでした。オーケストラ・パートを2台ピアノと打楽器に置き換えることで、シェーンベルクならではのかっちりとした音楽の骨格を浮き彫りにし、なおかつ少人数での演奏を可能とすることを目論み、編曲しました。
 ゲットーからの生き残りである「語り手」は、ユダヤ人収容所でのナチスによる非人道的な行状を冷徹に告発します。作品の掉尾を飾る男声合唱は、ガス室に送られようとするユダヤ人の祈りの声です。(松平)

演奏:
松平敬(語り)
薄木葵×東祐輔ピアノデュオ(ピアノ)
柳沢勇太(打楽器)
vocalconsort initium(男声合唱)
柳嶋耕太(指揮)


ワルシャワの生き残り

わたしは何も思い出すことができない
ほとんどの時間 気を失っていたに違いないのだ
わたしが覚えているのはただ あの壮大な瞬間だけ
彼らが一斉にうたい出したあの瞬間 まるで準備されていたかのように
何年ものあいだ 捨ておかれていた古い祈りを
忘れられた信条を!

だが わたしには記憶がない どうやって地下にたどり着き
ワルシャワの下水道で こうも長いあいだ暮らすことになったのか

その日はいつものようにはじまった まだ暗いうちからの起床ラッパ
出てこい! お前たちが眠ろうが 恐れで一晩中眠れずにいようとも
お前たちはずっと離れ離れだ 子どもたちから 妻から 両親から
彼らに何が起こったのか知らずして どうやって眠っていられようか?

再びラッパが
出てこい! 軍曹がお怒りになるぞ!
彼らは出てきた 何人かはとてもゆっくりと──老人や病人たちだ
ほかの何人かは神経質にすばやく
彼らは軍曹を恐れている できる限り急いでいるのだ

むだだ! あまりに多くの騒音 あまりに多くの動揺 そして早さも足りない!
軍曹が叫ぶ 「気をつけ!すっと立て!できないのか?
それともこの銃床で手伝ってやろうか?
まあいいだろう お前たちがそうして欲しいならな!」


軍曹とその部下どもは皆を殴った
若者も老人も 強い者も病気の者も 罪ある者も無垢な者も
痛々しかった 彼らのうめき苦しむのを聞くことは

わたしがそれを聞いているとき わたしもひどく殴られていて
それはあまりに激しく わたしはそこに倒れるしかなかった
わたしたちは皆 地面にたおれ立ち上がることができず 頭の上からさらに殴られた
わたしは気を失っていたに違いない 次にわたしが知っていることは ある兵士の言葉
「全員死んでいます」
それで軍曹は わたしたちを片付けるように命じた
そこにわたしは 半ば気を失ったまま横たわっていた
あたりはとても静かで──恐怖と苦痛のみ

そして軍曹が叫ぶのを聞いた 「番号数えろ!」
彼らはゆっくりと不規則にはじめた 一、二、三、四
「気をつけ!」軍曹が再び叫んだ
「もっと早く!はじめからやり直し!
一分以内に知りたいんだ
何人をガス室送りにしてやるかをな!
番号数えろ!」

彼らは再びはじめた 最初はゆっくり 一、二、三、四
だんだん早く さらに早くなって
ついには 野生の馬の駆け足のような音になってきて
そして突然 そのさなかに
彼らはうたいはじめたのだ 「シェマ・イスロエル(聞け、イスラエルよ)」と


【ヘブライ語の祈り】
聞けイスラエルよ 主はわれらの神 主は唯一つなり
主を愛せ 汝らのすべての心 すべての魂 すべての力もて
そして我がきょう汝らに命じる これらの言葉を心に刻み
汝らの子に教え 語るのだ 家で座っているときも
道を歩くときも 寝るときも 起きるときも

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ワルシャワの生き残り(2台ピアノ、打楽器のための版)

松平敬, 薄木葵×東祐輔ピアノデュオ, vocalconsort initium

私がinitium ; auditoriumに動画作品を出展することになったのはコロナ禍がきっかけですが、シェーンベルク晩年の名作『ワルシャワの生き残り』の今回の編曲を作ったのもコロナ禍で自由な時間ができたのがきっかけで、特定の演奏機会を前提としたものではありませんでした。オーケストラ・パートを2台ピアノと打楽器に置き換えることで、シェーンベルクならではのかっちりとした音楽の骨格を浮き彫りにし、なおかつ少人数での演奏を可能とすることを目論み、編曲しました。
 ゲットーからの生き残りである「語り手」は、ユダヤ人収容所でのナチスによる非人道的な行状を冷徹に告発します。作品の掉尾を飾る男声合唱は、ガス室に送られようとするユダヤ人の祈りの声です。(松平)

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