松平敬
声楽(バリトン)
全編オノマトペ(擬音語、擬態語)だけで構成された松井茂の特異な詩集『時の声』をテーマとした「変奏曲」。
様々な電子変調によって詩の朗読に「変奏」が施されるだけでなく、ドアの音、踏切の音、果ては、オリジナルのテキストの文字までが重ね合わされることによって、意味性を剥奪されたテキストに、さらなる無意味が重ね合わされる。
「変奏曲」とは、既存、あるいはオリジナルの音楽をテーマとして、それを様々に変容させていく楽曲形式を指す。本作品『松井茂の主題による変奏曲』は、音楽作品ではなく、松井茂の詩集『時の声』を主題とした一風変わった変奏曲である。しかも、『時の声』自体の製作過程が変奏曲的な発想に基づいているので、本作は変奏曲による変奏曲ということもできるだろう。
『時の声』は、松井茂がICレコーダーで録音した具体音を編集した音源を、他者がイヤフォンで聴取しながらオノマトペで模倣し、その声を録音。そしてさらに別の他者がそれを仮名原稿に書き起こし、松井が編集して完成させるという、複雑な伝言ゲームさながらの手の込んだ製作手法によって作られた。さらに、出版された詩集では、通常の書籍のように文字を印刷するのではなく、一種の美術作品としてこれらの詩を巨大なパネルに印刷したものを写真に撮り、それらを写真集のようにレイアウトしている。作品出版に際し、さらにもう一段階の「変奏」過程が施されたという訳だ。
『松井茂の主題による変奏曲』では、『時の声』に収録された7つの詩を松平が朗読したものを録画し、その動画をmaxで作ったパッチによって種々の加工を施す「電子的変奏」と、松平がiPhoneで撮影したドアや踏切の動画を、朗読の動画と重ね合わせることによる、やや奇妙なポリフォニーを軸に構成されている。さらにセクションによっては、原詩のテキスト画像を加工したものを演奏映像の背景として使用することで(この映像処理自体も変奏と解釈できる)、聴覚と視覚のポリフォニーも試みた。
各セクションのタイトルは、変奏の素材となった原詩のタイトルである。主題の提示部にあたる冒頭の「時の声」のみが、原詩そのものの朗読となっており、(詩集の収録順序にほぼ準じた)他の詩には何らかの「変奏」が施されている。通常の変奏曲では、単一の主題が幾通りにも変奏されるが、本作品では、複数の主題のそれぞれ単一の変奏が並置され、主題とは無関係の「扉のための間奏曲」が挿入されるなど、「変奏曲」という楽曲形式自体も変奏されている。
楽曲構成:
主題 時の声
第1変奏 音響清掃
第2変奏 恐怖地帯
第3変奏 重荷を追いすぎた男
第4変奏 マンホール69
第5変奏 待ち受ける場所
扉のための間奏曲
第6変奏 深淵
全編オノマトペ(擬音語、擬態語)だけで構成された松井茂の特異な詩集『時の声』をテーマとした「変奏曲」。
様々な電子変調によって詩の朗読に「変奏」が施されるだけでなく、ドアの音、踏切の音、果ては、オリジナルのテキストの文字までが重ね合わされることによって、意味性を剥奪されたテキストに、さらなる無意味が重ね合わされる。
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