富本泰成
アンサンブル歌手
1980年代に東京混声合唱団、晋友会合唱団のために作られた武満徹「うた」と、2008年から始まり、今もなおVox humanaのアンコール・ピースとして作られ続けている伊左治直「うたものがたり」
武満徹「明日ハ晴レカナ、曇リカナ」と伊左治直「歳月」という時間と生き方をテーマにした作品が『遷』というテーマにふさわしいと思い、この二曲をメインに据えたステージを組みました。
残りの作品は「空」をサブテーマにして、武満徹「小さな空」「翼」、伊左治直「雪」「一縷の夢路」を選曲。
武満と伊左治で三曲ずつ、計六曲のミニステージを全て多重録音で収録しました。
30年の時をまたぐ「愛唱曲の『遷』」を感じていただけるかと思います。
【雪】
年2回のVox humanaの公演のアンコール・ピースとして書かれていた小品の1ダース最後の作品(12作目)で、2016年のVox humana第34回定期演奏会のために委嘱された作品。
実は富本自身もVox humanaに演奏者として関わらせて頂いていた時期があり、数曲は初演メンバーとして歌っていたが、1ダースを目指して書いていただいていたので、記念すべき作品であることは想像に難しくない。
雪を様々な言葉で彩る詩に、すばらしく幻想的な音楽が作曲されている。
それに加えて「さやさや…」「とんとん…」雪をあらわす日本のオノマトペのなんと美しいことでしょう!
【翼】
もともとは1982年に、劇「ウィングス」の主題曲として書かれた器楽曲で、1983年に東京混声合唱団の委嘱で合唱編曲、作詞された。
全てのパートが同じ動きをするホモフォニックスな作品が多い「うた」において、部分的にではあるが、各パートが細かなリズムを歌い渡していくポリフォニックな編曲になったのは、この曲が器楽曲だった名残だろうか。
希望や自由を夢見て生きていれば、いつか本当に空だって飛べるかもしれません。
【一縷の夢路】
2012年のVox humana第27回定期演奏会のアンコール・ピースとして委嘱された作品。
わらべうたのような音楽を考えて、作詩の新美桂子さんには「文体が七五調であること」「曲として、繰り返しを前提とするもの」という条件をつけて詩を委嘱し、なんとその日のうちに出来上がった詩、とのこと。
「この世とあの世の“あわい”を曖昧でなく完璧な精度で顕在化した」と評する詩に、伊左治は非常に繊細で儚い曲を作曲した。
声だけでなく口笛を用いて表現した「光の声」の美しさは筆舌に尽くしがたいです。
【小さな空】
1962年に子ども向けの連続ラジオドラマ「ガン・キング」の主題歌として書かれた曲で、1981年に東京混声合唱団により合唱編曲委嘱された作品。
武満はラジオドラマが放送されてすぐに「放送が始まってまだ数週間ですが、近所の小学生が、主題歌を歌い手の藤木孝ばりにに巧みに歌っているのを聞くことがあります。これはやはり私にとっては楽しい、はじめてに近い体験です。」と述べているが、非常に耳に残りやすい旋律で、多くの人を惹きつける曲で、武満の「うた」の代表作と言っても過言ではない。
旋律の抑揚を<>であらわす武満の合唱編曲作品の中でもかなり細かく抑揚の指示がある作品で、今回はその指示をなるべく読み取った演奏が出来る様に丁寧に解釈を行いました。
【明日ハ晴レカナ、曇リカナ】
1985年に作曲された独唱曲で、1992年に晋友会合唱団によって合唱編曲委嘱された作品。武満徹「うた」シリーズの最終編曲作品となった。
この曲は、武満徹が当時書いていた映画音楽の撮影現場を訪れた際に、明日の天気を心配するスタッフのために即興で作った歌とのこと。
1番と2番では演奏テンポが大きく違い、それが驚くほどの表情の変化を感じさせる。
どんなに悲しいことがあっても、精一杯前を、上を向いて歩いていくしかないですよね。
【歳月】
2008年にVox humanaのために書かれた《ニッポン・サウダージ》のコーダ部分を抜粋して『歳月』というタイトルを付けた。
詩は陶淵明(365〜427)の「雑詩十二首 其一」という漢詩を映画監督の川島雄三(1918〜1963)が訳したもの。
300年代の人間の詩を1900年代の人間が訳し、それに2000年代の人間が作曲するというこの曲のバックグラウンド自体に『遷』を感じざるを得ない。
そして、この曲は年月によって「変わらないもの」をストレートに伝えてくれる。
世の中色々ありますが、明日も楽しく生きていきましょう。
1980年代に東京混声合唱団、晋友会合唱団のために作られた武満徹「うた」と、2008年から始まり、今もなおVox humanaのアンコール・ピースとして作られ続けている伊左治直「うたものがたり」
武満徹「明日ハ晴レカナ、曇リカナ」と伊左治直「歳月」という時間と生き方をテーマにした作品が『遷』というテーマにふさわしいと思い、この二曲をメインに据えたステージを組みました。
残りの作品は「空」をサブテーマにして、武満徹「小さな空」「翼」、伊左治直「雪」「一縷の夢路」を選曲。
武満と伊左治で三曲ずつ、計六曲のミニステージを全て多重録音で収録しました。
30年の時をまたぐ「愛唱曲の『遷』」を感じていただけるかと思います。
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