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笙の世界

真鍋尚之

世界最古のオーケストラとも言われる雅楽で使われる「笙」。千年以上に渡り雅楽でのみ用いられてきた楽器ですが、近年西洋音楽のインスピレーションを得て、数々の名曲が生み出されていった。特にこの20年で完全に独奏楽器としての地位を築き上げた。
真鍋尚之は世界各地でソロのリサイタルを行なっているが、その中でも最も演奏回数が多く得意とする《原風景》と《呼吸III》を中心にプログラムを構成。雅楽の魅力を伝える《平調調子》、異文化・他ジャンルの対比として、伝統楽器で演奏する西洋音楽を取り上げた。
静と動、東洋と西洋、その融合や対比など様々な観点からお楽しみ下さい。

雅楽について
雅楽は1300年もの歴史を持つ世界最古のオーケストラといわれています。その歴史は大宝律令で雅楽寮が制定された701年に遡る事ができます。使われる楽器は3種の打楽器(打物;鞨鼓、太鼓、鉦鼓)、2種の絃楽器(弾物;楽琵琶、楽箏)、3種の管楽器(笙、篳篥、笛)、さらに歌や舞も含みます。中国大陸や朝鮮半島から輸入され日本化された管絃や舞楽、日本古来の歌舞、平安時代に作曲された歌曲など、器楽や舞、歌などの多岐に渡ります。

笙について
吹口の付いた鞴(ふいご)の役割を果たす頭(かしら)と呼ばれる部分は、木製で漆が塗られています。その上に17本の竹の管が円状に配置しています。竹管の根元には金属製のリードが付いていて、吹いても吸っても音が鳴ります。リードには青石と呼ばれる孔雀石を粉末にした物が塗られています。息を吹き込む事によりリードが結露してしまうと振動を妨げてしまう為、結露しないように常に炭火などを用い温めて演奏します。
タイやラオスのケーンは笙の原型とも言われ中国で完成された楽器が日本に入り、当時のままの姿を残しています。

《平調調子》
雅楽には6種類の調があります。平調はE(=ミ)の音を基音とする調。調子は次に演奏される曲の音を整える役割を果たしています。
いつ誰が作ったかは不明ですがおそらく千年ほど前から存在していると考えられます。独特の節回しを持った非常に美しい曲です。雅楽の演奏では常に他の楽器と一緒に演奏されるため、この美しい旋律を聞く事はありません。


モーツアルト作曲 真鍋尚之編曲 《Ave verum corpus》(2005)
合唱曲として有名なこの曲はモーツアルト最晩年の傑作。ある作曲家の助言をきっかけにモーツアルト生誕250年の年に笙の為に編曲しました。《調子》など雅楽の演奏法を踏襲しながら原曲の魅力を最大限に引き出す編曲をしました。


湯浅譲二 (1929-)《原風景》 “To the Genesis“(1988)
湯浅譲二は1929年福島県生まれ。独学で作曲を始める。慶応大学教養学部医学部進学コース在学中より秋山邦春、武満徹らと親交を結び、音楽・美術・文学などによる前衛芸術グループ「実験工房」に参加。以後作曲に専念する。
この作品について次のように述べている
「例えば「笙」という楽器に向かう時、笙を歴史的に経時的に〈笙〉たらしめて来た存在理由を尊重しながら敷衍、伸張せしめる行為がある。伝統楽器の最大の魅力がそこにあるからである。
にもかかわらず、他方その対極にある、そうしたいわばコンベンション(常套的)を去り、インヴェンション(発明)へと向かう、真性の創造的行為がなければならない。」
「タイトルには「原風景」とあるが、この曲は宇宙の根元、人類あるいは文化発生の時点へと向かう、いわば〈祈り〉としての歌でもあると言える。」

この作品に出会ったのは芸大の学生時代。当時はこの複雑な楽譜から一歩距離を置いていた。しばらくした2005年に演奏する機会を得たが、その再演までの17年間、全く演奏される事はなかったという。再演以来私はこの《原風景》をヨーロッパなどを始め数多く演奏し、もっとも重要なレパートリーの一曲です。


真鍋尚之《呼吸III》(2003)
私の音楽にとって最も大切なものは「呼吸」である。
どんなに技術が発達し、機械が音を奏でる事ができても、音楽が人間の手を離れることはないと思っている。
笙という楽器は呼吸しながら演奏している楽器である。そう言う意味では私の音楽を表現するには最も適した楽器であるのかも知れない。
無機質な神秘ではない。機械的な音でもない。人間の根元である呼吸。人間的なぬくもり。笙が呼吸し、ひとつの音楽となることを願い作曲した笙独奏曲シリーズ「呼吸」。1995年にIを完成し、その後2006年に作曲したVまで続いている。
完成まで1年2カ月を要した「呼吸III」。主に用いた奏法はフラッター及び運動性の追求である。そして超絶技巧への挑戦でもある。この曲の演奏により2005年第一回東京邦楽コンクールで1位を受賞している。


ラヴェル作曲 真鍋尚之編曲《亡き王女の為のパヴァーヌ》(2020)
2020年3月より新型コロナウィルスの影響で全ての演奏会が中止になり音楽家達は演奏の機会を失ったばかりでなく、仲間と練習する事さえも出来なくなりました。緊急事態宣言が出された4月8日より日本の童謡・唱歌、歌曲や世界の民謡やクラシックの名曲を笙のために編曲し1日1曲ずつYouTubeにアップロードしました。その最後の100曲目となるのがこの《亡き王女の為のパヴァーヌ》。制約の多い楽器で複雑な和音を含むこの美しい曲を完成させる為には非常に多くの時間と労力を要しました。原曲はG-durですが楽器の構造上D-durに編曲しています。

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49:20

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世界最古のオーケストラとも言われる雅楽で使われる「笙」。千年以上に渡り雅楽でのみ用いられてきた楽器ですが、近年西洋音楽のインスピレーションを得て、数々の名曲が生み出されていった。特にこの20年で完全に独奏楽器としての地位を築き上げた。
真鍋尚之は世界各地でソロのリサイタルを行なっているが、その中でも最も演奏回数が多く得意とする《原風景》と《呼吸III》を中心にプログラムを構成。雅楽の魅力を伝える《平調調子》、異文化・他ジャンルの対比として、伝統楽器で演奏する西洋音楽を取り上げた。
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