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D 2 D

今井貴子, 加藤綾子

ひとつだったものが、ふたつ、みっつ。ここにしかないものと、ここにはもうないもの。「アヴェ・マリア」を基に収録された、ヴァイオリンとフルートによるデュオ、即興演奏、多重録音。2021年春、いま・ここにいた2人が、音楽をひらきます。

◆Tomas Luis de Victoria / AVE MARIA ── About our film
 トマス・ルイス・デ・ビクトリア / アヴェ・マリア──今回の出展内容について

本アルバムは、ルネサンスの全盛期スペインの最も有名なポリフォニスト、トマス・ルイス・デ・ビクトリア(1548年 ? アヴィラ - 1611年マドリッド)作曲の「アヴェ・マリア」を基に構築されている。

この四声の「アヴェ・マリア」は、ビクトリアの作品の中でも演奏される機会の多い作品の一つであるが、作品の起源には諸説がある。19世紀のドイツの作曲家カール・プロスケの作品だという説と、ビクトリアの真作なのかもしれないという説と、未だに音楽学者の中でもその答え出ていないようなのである。

作品の起源はともあれ、奏者二人がこの「アヴェ・マリア」を選んだ理由は、今回のinitium ; auditoriumのテーマ ”ひらく” であることは、間違いない。インタビュー①でもご覧頂けるように、本アルバムは、全体を通して今井と加藤の ”ひらく” を音楽にデコードした形で作られている。

・古の時代の音楽から今の時代の音楽へのひらく

・三つのテクスチュアとしての ”ひらく” ──モノフォニー/ポリフォニー/ホモフォニー

・自ら道を切り拓いていく ”ひらく”

・パンデミックの時だからこその ”ひらく”

『トラックⅠ. Ave Maria – Improvisation』は、アヴェ・マリア冒頭にあるゴレゴリアン聖歌のアヴェマリアのユニゾン、そこから一人ずつの即興(フルート→ヴァイオリン)を通り、またアヴェマリアのユニゾンへと戻るという「モノフォニー」。モノフォニーとは、単旋律音楽で、一つの声部を複数人でユニゾンで歌うことを表し、ポリフォニーやホモフォニーはモノフォニーの対義語にあたる。

『トラックⅡ. テレマン: カノン・ソナタ 第4番 ニ短調』そして『トラックⅢ. Improvisation Canon』は、複数の独立した声部からなる多声音楽「ポリフォニー」。ポリフォニーとは、独立した複数の声部がリズムも声部も異なった動きをする様式である。ホモフォニーのようなメロディーとハーモニーと言った主従関係もなく、全ての声部も対等に扱われる。テレマンのカノン風ソナタの詳細な解説は後述。

『トラックⅣ. Improvisation for Ave Maria』は、テープ音楽と奏者二人の即興の多重録音によって構成されている。まず、「アヴェ・マリア」の2声部を抜き出し、時空軸、調性感を歪ませたループを録音。そこに様々なエフェクトをかけたハーモニーのテープ音楽と、二人の即興を重ねた 「ホモフォニー」。ホモフォニーとは、単一のメロディーに対して、複数の声部がハーモニーを奏でる様式。


◆Georg Philipp Telemann / Canonic Sonata no. 4 in D Minor TWV 40: 121: I. Vivace ma moderato
 ゲオルク・フィリップ・ テレマン / カノン・ソナタ第4番 TWV 40: 121 第1楽章


ゲオルク・フィリップ・ テレマン(1681年3月14日マクデブルク- 1767年6月25日ハンブルク)は、18世紀当時のヨーロッパで人気と名声を博し、バロック後期の対位法に重みを置いた作品から、ホモフォニーを意識した古典様式への新しい試みまで、意欲的に新しい道を切り開くタイプの作曲家であった。また、歴史上最も多作な作曲の一人でもあり、 教会音楽から市民のための音楽まで、現在約3700作品ほどが確認されいる。

テレマンの作風は、当時のヨーロッパで流行していたイタリア様式、フランス様式、そしてその2つを融合させた混合様式に加え、ポーランドで学んだスラブ様式、シュトルム・ウント・ドランク、ギャラント様式など多くの音楽に感化されているのが特徴である。また、「食卓の音楽 ターフェル・ムジーク」という宴のBGM に合うような曲集の作曲、そして愛好家にも楽しんで演奏してもらえるようにと簡単な作品を書き、手軽に手に入れられるようにと出版にも力を注いだ点においても、当時の作曲家としては珍しいことであった。

彼の稀有な才能は幼少時から認められたが、母は音楽家ではなくキャリアのある人生を望み、テレマン はその意向に従いライプツィヒ大学で法学を学ぶことになる。テレマンは、 独学で音楽を学び続け、イギリスへ渡ったヘンデルとの文通を頻繁に続けた。若き大作曲達の往復書簡には、一体どんなことが認めてあったのだろうか?

20歳になったテレマンは、音楽愛好家の団体コレギウム・ムジクムを設立し、自作のオペラを初演し成功を収め、音楽家への道を大きく切り開いて行くことになる。1704年はポーランドのゾーラウの宮廷でカペルマイスターに就任。1708年にはアイゼナハ、そして1712年にはフランクフルト・アム・マインの音楽監督を務め、1721年には残りの生涯を過ごすことになるハンブルクへ移住し、ハンブルク市の音楽監督、そして名誉あるヨハネウム学院のカントルを務めることになる。

本作品は、1730年出版の四重奏集 Quadri(1730 Hamburg) に影響を受けたフランスの音楽家達からの強い希望で招かれたパリ旅行中 (1737- 1738) に作曲された。テレマンは、20年間有効の国王認可による印刷販売の許可をパリで得て、本作品が収録されている「6つのカノン風ソナタ」と、かの有名な「パリ四重奏 1738」(Nouveaux quatuors en six suites)をパリのBoivin, Le Clercより出版する。

当時、パリではチュイルリー宮での演奏会シリーズ「コンセール・スピリチュエル」(1725- 1791フランス革命にて終了)が大流行しており、フルートのミシェル・ブラヴェ、そしてヴァイオリンのジャン=マリー・ルクレールが活躍していた。「パリ四重奏」は彼らとコンセール・スピリチュエルにて共演するために書かれた作品である。それに合わせて、本作品を書き下ろしたのは、パリ音楽家・愛好家にも自らの音楽を浸透させたいというテレマンの心内があったのかもしれない。

本作品は、全ての楽章が二声カノンで書かれ、楽器指定は2本フルート、2艇ヴァイオリン、もしくは2艇ヴィオラ・ダ・ガンバ。 3楽章構成(急・緩・急)の美しい曲集である。それまで譜面上でしか知ることができなかったフランス様式を、8ヶ月のパリ滞在で思い残すことなく感じ取り、音として残した本作品。順風満帆な57歳のテレマンが夢にみたパリで描いた音楽。そこには慈しみとも言える音楽への愛を感じることができる。

(解説: 今井貴子)

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